早稲田大学シュプリンゲンスキークラブ公式ブログ

早稲田大学公認のアルペンスキーサークルです!

MENU

『週刊アルペン語り』第十回 重さは正義か (アルペンスキーにおける体重の重要性)

 アルペンスキーで好き勝手語る回もついに記念すべき第 10 回目に突入しました。

 今回は2022年2月、第49回全国学岩岳スキー大会で高速系入賞を果たしたシュプリンゲン遠藤(社会人2年目)の誕生日ですね。本日の執筆はその同期の高峰(大学院2年目)が担当します。

第49回全国学岩岳スキー大会 男子団体 表彰式
(写真中央が遠藤/2022年)

 今回のテーマは、体重がアルペンスキーのタイムに及ぼす影響についてです。アルペンスキーには体重が必要なのか、あるいは体重は必要ないのかについて考えていきます。

 結論から、体重は必要で、重い方が最高速度は速いです。

 スキーは落下競技です。落下というとガリレオの実験を思い起こす方も多いでしょう。ガリレオの実験だと、質量が異なる2物体の落下時間は同じといわれています。これは真空状態での実験で、その場合に限り質量が異なる2物体は同時に着地します。しかしながら現実空間であれば、重い物体の方が先に落ちると言われています。

  • ガリレオの実験 (後世での創作話との噂)
    真空状態において質量が違う2物体を、塔から落としたら地面への着地が同時

 スキーでも本当にそうなのか?ということですよ。ここからは、物理の知識で簡単に考えていきます。

 

①真空状態

 物体の重さ(板と人)をm、斜面の角度(斜度)をθ= 30°とし、動摩擦係数(雪面抵抗)をμ'とすると、運動方程式は以下のように立てられます。

ma=mgsin30°−μ'mgcos30°

 加速度だけ見ると

a=gsin30°−μ'gcos30°

 あれっ、スキーなのに重さ関係ねーじゃん!
 (ブックオフなのに本ねーじゃん!)
 つまり、真空状態であれば、選手の体重は、速度・加速度共に影響を与えません。

 

斜面を滑る物体に働く力

図引用元(https://www.try-it.jp/chapters-8001/sections-8111/lessons-8124/practice-2/)

 

②現実空間

 現実空間であると空気抵抗が大きな影響を及ぼします。例えば、筑波大学の研究だと、秒速 40 m/s(時速144 km/h)において以下のように空気の影響が見られたりします。

ダウンヒルレーサーモデル周りの渦度による渦構造表示
(流速40 m/s時)

 空気抵抗は簡単な数式1つで大体正確に表すことができます。

f=−kv

 ①より、空気抵抗がある状態での運動方程式は以下のように表せます。

ma=mgsin30°−μ'mgcos30°−kv

 雪面とスキー板の摩擦は現実だと非常に小さいので省略し、斜度も一般化すると、

 一般の速度を出すことができます。

 

③最高速度

 最高速度は、②の一般の速度から、t を無限に大きくすることで求められます。

 t → ♾️で以下の値に近づきます。

v = mg / k

m:選手の体重     
g:重力       
k:比例定数 (空気抵抗)

 つまり、体重が重い選手の方が最高速度は速いのです。最高速度まで達するまでの速度変化をグラフに表します。

体重の違いによる滑降速度の時間変化

 遠藤が入賞した当時は大体体重が90 kgだったと記憶しています。このトド(90kg)と人間(70kg)が最高速度まで加速しきった場合、余裕で追いつけないことが分かります。

 ※分からなかった方、気になった方は、高校の力学、大学での微分方程式の解法を復習してみてください。

 

 重い方が速い、じゃあ無限に太れば良いのか? 

 という訳でもありません。トップレーサーはデブではないです。重ければ重いほど、ターンで脚にかかる負荷は増えますし、漕ぎで必要な腕や背中の筋力も増えます。重い分、マッチョになる必要があるのです。

 また、心配機能を鍛えていくとデブになるのは難しいです。コースの所要時間が長いW杯にマッチョが無限に湧いているのは、そういった理由もあるのでしょう。

 

 以下の格言にもあるように、短いレースであればどうなるかは分かりません。

 W杯が30秒コースならデブでもいけるのかも。心肺機能を上げるトレーニングしながらデブるのは無理だからな (野口慧悟  シュプリンゲン M2 / 2023.11.24)」

 

 コースの長さの違い以外にも、種目の違いによっても重さの重要性は変わってくると思います。DH・SGは最高速度が求められるので、GS・SLより体重の必要性が上がってきます。一方、SLは素早い切替が必要で、アジリティが優先されます。その場合、体重を削りきることが大事なのではないでしょうか。

 

 実際にFIS上位陣の選手を調査した研究では、種目別の選手体重差が見られました。

 (DH・SG トップ選手の体重)> (GS・SL トップ選手の体重)

性別に関係なく、技術系スペシャリストは高速系スペシャリストよりも体重が軽く、相対的な脂肪量が少なかった。

 

 重さは正義です。

 大会のレベルや狙いたい種目に合わせ、怪我しない程度に体重を増やしましょう。皆様が「うごけないデブ」ではなく「うごけるデブ」になれるように願っています。

 最後までお読みいただきありがとうございます。次回もお楽しみに!

 

【参考文献】

1. Flow visualization of downhill skiers using the lattice Boltzmann method  

 格子ボルツマン法を用いたダウンヒルスキーヤー周りの流体の可視化

 (https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1361-6404/38/2/024002)

2. Event-Specific Body Characteristics of Elite Alpine Skiers in Relation to International Rankings
 国際ランキングと関連したエリートアルペンスキーヤーの種目別の身体特徴

 (Event-Specific Body Characteristics of Elite Alpine Skiers in Relation to International Rankings)

【記事分類】