みなさん初めまして、本日の『週刊アルペン語り』は学部3年にしてブログ初投稿の栗原が担当します。今回のテーマは大好評の第十回「重さは正義か(アルペンスキーにおける体重の重要性)」の内容をさらに深掘っていきたいと思います。まだ第十回の記事をご覧になっていない方は是非ともそちらを先にご覧ください
第十回の記事はこちら↓
さて、ではまず第十回の記事における結論を復習しておくと、「体重は必要で、重い方が最高速度は早い」でした。そして根拠として、以下の運動方程式と導出された速度の式が示されていました。
ma=mgsinθ-μ'cosθ-kv(元記事内では斜度θ=30°としていた)
v=(1-)(斜度が一般化され、極小である摩擦を省略した形)
ここでこの2式を見て疑問を抱いた者はいないだろうか?確かに真空状態の時とは違い、運動方程式の右辺にmが入っていない項が存在することにより、これを解いた速度vの式にも質量mが変数として残るという説明は理解できる(ような気がする)。
1.
まずはとても雑な仮定のもとで検証してみようと思う。ma=mgsinθ-μ'cosθ-k'v
これを解くと、v=(1 - )
を得る。 第十回の時と同様に摩擦を0と近似し、t→∞にすることで、2.
次に身⻑、体重と空気抵抗の関係という同様のテーマに興味を持ち、自身の実験結果と導出方法をnote にアップしている方がおられたので、そのHayakawa氏の実験結果を利用しようと思う。彼は空気抵抗係数は(M:体重、L:身長)に比例すると仮定してzwift(バーチャルサイクリングサービス、仮想世界内をサイクリングできるビデオゲーム)にて実験を行った。彼の仮定は本記事1.と同様に導き出したものであると推察できる。彼の実験の結論としては空気抵抗係数はに比例するとするよりもMの一次関数に線形近似した方が近いといったものであった。zwift内での空気抵抗が現実をどの程度再現しているかは不明であるが、この結論の元では、アルペンスキーにおける 最高速度に体重は無関係であると言える。3.
最後に、日本陸上競技連盟の公式サイト掲載の記事によると、1972年にランニングにおける空気抵抗は身⻑の2乗に比例するという A.V.ヒル博士による研究結果が存在する(空気抵R=0.056v2×0.15h2 ただし v は速度、h は身長)。この仮定に基づくと、そもそも空気抵 抗は体重とは独立した値であるため、第十回の記事の議論がそのまま使える。しかしながら、 これはランニングやマラソンにおける仮定であったため、身⻑以外の体格差を考慮しなか ったために人間の前面投影面積を0.15h2 と近似した可能性を否定できない。結果、色々考察してみたものの、体重がアルペンスキーの速さに直結するかを断言するのは少々困難であった。また、今回の議論は斜面上の落下運動を前提としていたが、実際のアルペンスキーを考察対象とする以上、カービングターンにおける板への過重量と体重の関係など別途考察が必要な要素も存在する。安直な結論としては、前面投影面積を増やさずに体重を 重くすれば最高速度が速くなることは間違いないため、一言で増量と言っても、脂肪ではなくより密度の高い筋肉を増やすことが大事であると言える。ということであアルペンスキーヤーのみなさんは陸トレ頑張りましょう!そしてもし今回の内容について詳しくご存知の方がいればコメントをお願いします。
Special thanks to Sota Yajima for solving the differential equation.
参考文献
https://www.jaaf.or.jp/news/article/13135/ https://www.isuzu.co.jp/support/information/cost/manual_knowledge.html https://www.eee.kagoshima-u.ac.jp/~watanabe-lab/Phys2019 https://note.com/m_hayakawa/n/n41270da720be