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『週刊アルペン語り』第十一回 第十回「重さは正義か」の追加考察

みなさん初めまして、本日の『週刊アルペン語り』は学部3年にしてブログ初投稿の栗原が担当します。今回のテーマは大好評の第十回「重さは正義か(アルペンスキーにおける体重の重要性)」の内容をさらに深掘っていきたいと思います。まだ第十回の記事をご覧になっていない方は是非ともそちらを先にご覧ください

第十回の記事はこちら↓

 

springen-ski.hatenablog.jp

 

さて、ではまず第十回の記事における結論を復習しておくと、「体重は必要で、重い方が最高速度は早い」でした。そして根拠として、以下の運動方程式と導出された速度の式が示されていました。

ma=mgsinθ-μ'cosθ-kv(元記事内では斜度θ=30°としていた)

v= mg k (1- e - k m t )(斜度が一般化され、極小である摩擦を省略した形)

ここでこの2式を見て疑問を抱いた者はいないだろうか?確かに真空状態の時とは違い、運動方程式の右辺にmが入っていない項が存在することにより、これを解いた速度vの式にも質量mが変数として残るという説明は理解できる(ような気がする)。

 
しかし、果たして本当にそうなのだろうか?
 
 
今回の運動方程式では空気抵抗力を速度vに比例する関数として空気抵抗係数kをおいている。ここで考えていただきたいのは、この空気抵抗係数kは何に依存するのかいう点である。直感的にも、物体(ここでの考察の場合はスキーヤー)の前面投影面積が係数kを決定する一つの変数であることは納得していただけると思う。実際、空気抵抗は前面投影面積に比例することが知られており、我々スキーヤーはこの前面投影面積を減らし、空気抵抗を少なくするためにクローチングを組んでいる。では、人間の前面投影面積はどんな変数に依存するのか?シンプルに考えられるのは身長、そして体重...体重である。一旦難しい計算式や物理理論を忘れて直感的に考えて欲しい。身長170cmで体重70kgの人間と身長170cmで体重100kgの人間、当然後者の方が体積が大きく、前面投影面積も大きく、従って空気抵抗係数も大きいはずである。ここで本記事赤字の部分を今一度読んでみてほしい。そう、もし仮に空気抵抗係数が体重、つまり質量mに比例するなら、運動方程式の両辺からmが消える、すなわち体重は速度に関係しないという結論を得ることになる。つまり、第十回の結論を数学的に支持するためには、空気抵抗係数kmの一次式ではかけないことを示す必要がある。
 
結論から言ってしまうと、残念ながら私は空気抵抗係数を体重の関数としてどう表すのかを見つけることはできなかったので以下3つのアプローチで考察していこうと思う。

 

1.

まずはとても雑な仮定のもとで検証してみようと思う。
i)人間の密度は一定
ii)同じ身長の人間の体重が増加する時、その横幅と厚みは同じ割合で増加する
iii)体重と体積は比例する
以上2つの仮定の元では、人間の前面投影面積は体重m12乗に比例する。この時、として運動方程式は次のように書ける。

ma=mgsinθ-μ'cosθ-mk'v

これを解くと、

v= m g ( sin θ - μ ' cos θ ) k' (1 - e-k'mt)

を得る。 第十回の時と同様に摩擦を0と近似し、t→∞にすることで、
最高速度 vmax= m gsin θ k'
を得られ、元の結論同様、最高速度は体重に依存し、体重が重ければ重いほど、最高速度が大きくなることがわかる。
 
 

2.

次に身⻑、体重と空気抵抗の関係という同様のテーマに興味を持ち、自身の実験結果と導出方法をnote にアップしている方がおられたので、そのHayakawa氏の実験結果を利用しようと思う。彼は空気抵抗係数はML(M:体重、L:身長)に比例すると仮定してzwift(バーチャルサイクリングサービス、仮想世界内をサイクリングできるビデオゲーム)にて実験を行った。彼の仮定は本記事1.と同様に導き出したものであると推察できる。彼の実験の結論としては空気抵抗係数はMLに比例するとするよりもMの一次関数に線形近似した方が近いといったものであった。zwift内での空気抵抗が現実をどの程度再現しているかは不明であるが、この結論の元では、アルペンスキーにおける 最高速度に体重は無関係であると言える。
 
 

3.

最後に、日本陸上競技連盟の公式サイト掲載の記事によると、1972年にランニングにおける空気抵抗は身⻑の2乗に比例するという A.V.ヒル博士による研究結果が存在する(空気抵R=0.056v2×0.15h2 ただし v は速度、h は身長)。この仮定に基づくと、そもそも空気抵 抗は体重とは独立した値であるため、第十回の記事の議論がそのまま使える。しかしながら、 これはランニングやマラソンにおける仮定であったため、身⻑以外の体格差を考慮しなか ったために人間の前面投影面積を0.15h2 と近似した可能性を否定できない。
 
 

結果、色々考察してみたものの、体重がアルペンスキーの速さに直結するかを断言するのは少々困難であった。また、今回の議論は斜面上の落下運動を前提としていたが、実際のアルペンスキーを考察対象とする以上、カービングターンにおける板への過重量と体重の関係など別途考察が必要な要素も存在する。安直な結論としては、前面投影面積を増やさずに体重を 重くすれば最高速度が速くなることは間違いないため、一言で増量と言っても、脂肪ではなくより密度の高い筋肉を増やすことが大事であると言える。ということであアルペンスキーヤーのみなさんは陸トレ頑張りましょう!そしてもし今回の内容について詳しくご存知の方がいればコメントをお願いします。

 
 

Special thanks to Sota Yajima for solving the differential equation.

 

 

参考文献

https://www.jaaf.or.jp/news/article/13135/ https://www.isuzu.co.jp/support/information/cost/manual_knowledge.html https://www.eee.kagoshima-u.ac.jp/~watanabe-lab/Phys2019 https://note.com/m_hayakawa/n/n41270da720be