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『週刊アルペン語り』第十七回 ワールドカップにおける抜重動作のトレンド変化

スキーやってますかー?僕はスキーできていません!東工大修士2年の嵯峨野です。

安請け合いしたものの、別に語りたいことなんてないなぁとかなり悩んでいました。そして修論が終わらない。そんな中見つけたのがこの文章。こちらは「『週刊アルペン語り』第二回 深い内傾角の作り方」にある野口氏の記述です。今回はこの部分をより深掘りしていきたいと思います。

 

 

 

目次です

  1. ふたつの抜重動作
  2. マルコ・オデルマット選手、マルセル・ヒルシャー選手、フィリップ・ズブチッチ選手の比較
  3. 上への抜重は本当に遅い?
  4. タイムを縮める戦略

注意!80 %の想像と20 %の妄想でできています。

 

  1. ふたつの抜重動作

アルペンスキーにおいて抜重動作はとても大切です。

アルペン語りで誰かが書いていたように思いますが、荷重して板に溜まったエネルギーを抜重によって解放することで推進力が生まれるからです。板が走るなどと言ったりします。そして多くの選手が「切り返しでしっかりと立ち上がる」という風にアドバイスされた経験を持つのではないでしょうか?つまり、殆どのコーチは野口氏と180°逆のアドバイスをします。

なぜ腰を持ち上げるように言われるかというと、高い位置から荷重することでより強い圧をかけることができるからです。インラインとかだとわかりやすくて、スウィズルでは腰を持ち上げて高い位置からの落差を利用すると加速していくのが分かると思います。

 

では野口氏が間違っているのかというとそうではなく、実は抜重動作には2種類あると言われています。それがUp-unweighting(上への抜重)とDown-unweighting(下への抜重)です。

基本的に上への抜重動作が古い技術、下への抜重動作が新しい技術とされています。

下への抜重のプロフェッショナルがマルセル・ヒルシャー選手です。次の写真をご覧下さい。

 

どちらも切り返しのニュートラルを切り取ったものですが、かなりお尻が落ちていることが分かるかと思います。ヒルシャー選手はこのコンパクトな切り返しによって圧倒的な強さを見せつけました。

実際、近年の女子選手においてもララ・グート・ベーラミ選手を始めとしてコンパクトな切り返し動作がトレンドになりつつあります。では上への抜重動作は劣っているのでしょうか?

僕はヒルシャー選手が引退してから、男子ではむしろ古い技術への回帰が起こっていると考えています。その代表がマルコ・オデルマット選手です。こちらの写真をご覧下さい。

ヒルシャー選手との違いは一目瞭然で、オデルマット選手のニュートラルポジションはかなり高いです。

圧倒的に速い2人の選手が全く別の切り返し動作を行っているというのはかなり面白いです。

そこで、次はより詳しく2人の動作を、ついでに2人の中間としてフィリップ・ズブチッチ選手を比較したいと思います。

 

  1. マルコ・オデルマット選手、マルセル・ヒルシャー選手、フィリップ・ズブチッチ選手の比較

こちらはアルタバディアのGSにおいてニュートラルを切り取ったものです。ヒルシャー選手は既に引退しているので2017/2018年のものを、他の2人は今年のものを使用しています。

先程も書きましたが、上のオデルマット選手は切り返しで高く立ち上がっており、ヒルシャー選手はしゃがみこんでいます。ズブチッチ選手は真ん中位です。また3人のライン取りを比較してみると上のオデルマット選手はラインが高く、ヒルシャー選手は旗門の真ん中付近でようやく切り返していることが分かります。ズブチッチ選手もラインは高めですが、オデルマット選手ほどではないですよね。

写真の中では横への移動という言葉を使っています。旗門を通り過ぎてからの横への移動が、オデルマット選手は強く、ヒルシャー選手は弱いです。旗門と旗門を結んだラインの上へ出れば出るほどラインが遠くなります。ヒルシャー選手の方が単純に最短距離を滑っています。

切り返しで腰が高い選手程ラインが高いという傾向が見えてきそうです。

 

  1. 上への抜重は本当に遅い?

上への抜重が遅いと言われる理由は、重心を持ち上げる必要があるためです。

しかしオデルマット選手の切り返しが遅いかといわれると全くそんなことはないですよね。

なぜ素早く腰を持ち上げられるかというと、オデルマット選手は身体を一本の長い軸として使うことができているため、板が走る力を利用して腰を持ちあげているからです。

そして、身体を1本の長い軸として使うことは、高いライン取りの説明にもなります。

ここで、オデルマット選手、ヒルシャー選手、ついでにダメな人の板と腰の相対位置のイメージ図を示します。マキシマムでは体が傾き、ニュートラルで板の真上に立ちます。〇は腰の位置です。

オデルマット選手のように身体を1本の軸として使い、板の反発の力で腰を上げようとすると、板と身体がお互い近付いて行くため、ライン取りが高くなります。一方、ヒルシャー選手のように膝を曲げて板の反発を吸収するようにすると身体が板へ近付いて行くため、ラインは低くなります。

動画で見るとオデルマット選手は本当に軸が長いです。

ダメな人は身体を1本に使えないため、ラインが落ちます。そこからさらに重心を持ち上げようとするためターンが遅れてしまいます。

 

また、オデルマット選手のように最近の選手の特徴として、エッジを立てないように横滑りしながら板を下へ向ける、いわゆる方向付けの動作をとても重視しているように思います。ターン後半に強く横へ移動して、次の旗門の上へ出ることができているため、ソフトなターン前半のエッジングを行うことができるのではないでしょうか。

今年のワールドカップを観る人だと、オデルマット選手は内倒しても大きなダメージにならないことが多いことに気付くと思います。これはターン前半にしっかりと方向付けができているからです。

ここまでをまとめると次のようになります。

  4.タイムを縮める戦略の違い

アルペンスキーではエッジを立てることと同じくらい、エッジを立てないことも重要だと思います。エッジは滑走面と違い浮力がないので、どんどん雪面へ沈み込み抵抗となってしまうからです。

よりタイトなラインを通りタイムを縮めるのか、あるいはソフトなエッジングと高いライン取りによって安全かつ板の滑走性を最大限生かした滑りをするのか。

そしてどちらの滑りを重視するかによって道具のセッティングも変わってくると思います。

 

ここからはこれまで書いてきたことの中で最も空想に近いのですが、

オデルマット選手のように高速系の選手の板はベース角が大きめ設定されており、ターン前半に余計な抵抗を生まないようなっている気がします。

またヒルシャー選手のようにオーストリアの選手のブーツは前傾角が強く、深くしゃがみこめるセッティングになっている様な気がします。

そして、近年滑りのトレンドが変わってきたことも、スキー板の進化により板の滑走性を生かした滑りが求められるようになったからではないでしょうか?

 

最後に

祝!!加藤聖五選手SL, GS両種目ポイント獲得!

 

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アルペン語り出版部より
修士論文で忙しい中、登場ありがとうございます。彼は"Masterスキーヤー"と呼ばれる、いわゆる大学院生スキーヤーです。大学院生といっても忙しさは専攻や研究室でまちまちです。昨年、スキー場にずっといたせいで、暇な研究室に配属されたのか?と噂されていましたが、コロナを装いゼミを体調不良で休んでいたそうです。Masterスキーヤーの鏡ですね。( 2年前に「学部でスキーは引退かな!」と言っていたのが懐かしいです。 )
彼は1年の頃から気合をいれ、スキー部あるあるのR30を履き精進を重ねていました。少数の部活でしたが、オフトレから体をしっかり作っていた印象があります。順調に実力を伸ばしていた中、コロナでスキー部の公式戦参加が禁止され、その時期はなにもできず途方に暮れていましたね。大学3年の一番仕上がっている時期です。それから数年が経ち、東工大のスキー部の競技班は大所帯になりました。大学始めながらも、Masterスキーヤーに並ぶ実力の選手も現れました。今年、彼らと共に集大成を見せてくれることを期待しています。

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参考

https://youtu.be/90RChr1otpQ?si=HLNMS7HWDfQwaOpT

https://snowjedi.exblog.jp/32114234/

https://www.youtube.com/watch?v=h6X7tF3EGIA

https://youtu.be/edYitcKsMXA?si=teNIxHKPqmO3G5bl

https://youtu.be/MXwRQeYgzug?si=NyQdE1z2Vz2rLrhn

https://youtu.be/O_9mhm880mA?si=zrCUbvDZIay6j7L_